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書評: ジョン・フリーリ『イスタンブール 三つの顔をもつ帝都』

書評: ジョン・フリーリ『イスタンブール 三つの顔をもつ帝都
久しぶりに書評をアップする。
この本はトルコの著述家John Freelyが書いたIstanbul: The Imperial Cityをオスマン史家の鈴木董氏監修のもと長縄忠氏が翻訳したものである。
この本の著者は元々アメリカ出身の物理学者ではあるが、トルコのイスタンブールに移住してボアズィチ大学で教鞭をとっている。そしてイスタンブルについて深く調べて、イスタンブルについての本を多く執筆している。そんな彼の三部作のうちの三つ目がこの本である。
この本は君府を三つの時代(ビザンティウム、コンスタンティノープル、イスタンブール)という三つの名で地名を分けて叙述している。それぞれの政治史の話を骨格に豊富な一次史料を駆使して街の姿や人々の行き来を活き活きと表している。
使用している史料は都市の記述という性格上、古代はギリシア喜劇の断片を用いたり、近現代だと小説を用いたりする場面もあるが、基本的には旅行記や年代記などの叙述史料をふんだんに用いてイスタンブールという街を紹介している。
最初にある歴史地図が君府の時代の層をハッキリと表していて魅力的だ。ギリシア時代の城壁はせいぜいトプカプ宮殿周辺しかなかったことには驚きを隠せなかった。また、セウェールスの城壁で囲った部分が、テオドシウス城壁で囲まれている君府よりも狭い領域だったことからして、一口に君府といってもさす領域は時代によって大きく変わることを改めて思い知らされた。
また、イスタンブールの空気を上手く想起させる工夫か、主要な観光名所の名と、そこで何が行われたがについて具体例を挙げて説明しているところが好印象だ。例えば、オスマン朝皇帝が「エユプでオスマンの剣を着ける」と表現したり、一部のビザンツ皇帝や皇族がプリンシーズ諸島に島流しにされるなど、現代の旅行者がその土地に行ってきなくなるような表現が多々ある。
ビザンツ時代に関しては、王朝の区分で章を分けるのではなく、文化で時代を区分しているところが目を引くところである。例えば、ビザンツ史においてはコムネノス朝の始まりをイサキオス1世コムネノスからにしたり、アンゲロス朝とラテン帝国時代をまとめて「ラテン人による占領」とするなど、他の通史とは異なる時代区分が目立つ。
パレオロゴス朝をカンタクゼノスの死より前か後かで二つに分けて記述しているところは興味深く感じられた。
オスマン朝時代に関しては、オスマン朝の大旅行家であるエヴリヤ・チェレビの旅行記をふんだんに引用しているほか、地下宮殿を発見したペトルス・ギリウスの記録を使用しているところも注目に値する。
他にポンティアノスが注目したのは、バヤズィット2世の功績についてバヤズィディエというキュッリエを作ったことを挙げている。これについてエヴリヤ・チェレビは合法的な資金で建てたれたため霊的に優位だったことと、イスタンブルの中央に位置しているために多くのムスリムが来ていたことを挙げている。
以前、ポンティアノスがブルサのコザハンに行き、説明板を見たときに「このハンはスルタン・バヤズィット2世によって彼のイスタンブルのモスクとマドラサを建築する際の費用を得るために建築された」と書かれており、もしやこれを指すのかと思い目から鱗が落ちた。
この本の長所はビュザンティオン、コンスタンティノープル、イスタンブールという君府の三つの時代の歴史を一冊の本の中で比較できるという点である。特に、ギルドの記述が興味深く、ビザンツのイサウリア朝期の君府の手工業ギルドとエヴリヤ・チェレビの記録によるオスマン朝期のギルドとを比較できたのは非常に有意義である。
そして、この本の最後にはペトルス・ギリウスの「ほかの都市は死をまぬがれない。だが、この都市だけは人類がこの地上に存在する限り、滅びることはないように思われる」という名言が書かれている。歴史のガイドブックを締めくくる上では非常に美しいまとめ方である。
また、訳者あとがきにてイスタンブールの時代ごとの魅力をアヤソフィアのゾエのモザイクになぞらえているのが非常に印象的である。ゾエの夫が変わるたびに、アヤソフィアのゾエの隣にいるビザンツ皇帝のモザイクが塗り替えられていたことからこのような例えが生まれたという。ジョン・フリーリは他の通史と比べてみてもゾエの容姿などについての記述をプセルロス年代記などから多く引用している。
英語版と比較して参考文献が欠けているのは残念でならないが、それでも君府のこれだけの長い歴史について「三都」物語として纏めている本が日本語で読めるのは大変貴重である。
この本はイスタンブールに行ったことのある人、また行ったことがないが興味がある人、もう一度行くために勉強したい人、これら全ての人へのよき「歴史ガイドブック」となるであろう。
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